ナチュラル掃除の安心感と市販洗剤の除菌力、その両立に悩んだ体験と、完璧を手放して心の余裕を得た方法の記録。
インスタグラムで見る「丁寧な暮らし」に憧れて、私もキッチン周りや床掃除に、重曹やクエン酸スプレーを使うようになりました。
環境にも優しく、小さな子供がいても安心。そう思っていました。
でも、トイレだけは違ったのです。
クエン酸スプレーで便座や床を拭き上げても、心のどこかでずっと「本当に、これで菌は死んでる…?」という不安が拭えない。
キッチンシンクを拭くのとは訳が違う、あの何とも言えない気持ち悪さ。
この「安心」と「清潔」の板挟みで、私は長いこと苦しむことになりました。
菌と罪悪感、二つの敵に挟まれた日々
我が家には子供が二人います。特に下の子はまだ小さく、トイレに入ってきては、あちこち触ってしまう。
便座はもちろん、床に手をついたり、その手で目をこすったり…。
その光景を見るたび、私の心臓はヒヤッと縮こまる思いでした。
「ちゃんと除菌しなきゃ」
その強迫観念から、市販の強力な除菌スプレーに手が伸びる。
でも、スプレーを噴射した瞬間に広がる、あのツンとした塩素の匂い。
子供がむせたりすると「私、なんてものを吸わせてるんだろう」という強烈な罪悪感に襲われるのです。
だから、またクエン酸に戻す。
でも、拭き終わった後も、菌が繁殖している想像をして気持ち悪くなる。
この無限ループでした。
後から知ったことですが、SNSを覗いてみると、私と同じように「インスタで丁寧な暮らしを見てナチュラル掃除を始めたけど、本当に菌は死んでる?不安で眠れない」と悩んでいる人がたくさんいました。
「子供がいるから罪悪感がある」けれど、衛生面の不安も捨てきれない。
私だけが、このジレンマに陥っているわけではなかったのです。
産後から情緒が不安定になりがちで、家事と育児に追われる毎日。夫はあまり協力的ではなく、このトイレ掃除の葛藤も、私一人で抱え込んでいました。
理想の暮らし(ナチュラル)と、現実の不安(衛生面)。
どちらも手放せないのに、どちらも私を満足させてくれない。「ちゃんとできない」自分が嫌で、ストレスばかりが溜まっていく日々でした。
「完璧な除菌」という幻想から抜け出す
そんなある日、ついに恐れていたことが起きました。
トイレから出てきた子供が、床を触ったらしい手をそのまま口に入れようとしたのです。
「ダメ!!」
私は悲鳴のような声を上げ、慌ててその手を洗わせました。
頭に血がのぼり、全身が震えるようでした。「私の掃除が中途半端だからだ」と、自分を責めました。
その夜、子供たちが寝静まった後、私は半ばパニック状態で、強力な塩素系洗剤を手にトイレにこもりました。
もうナチュラルなんて言ってられない…。完璧に除菌しなきゃ。
でも、狭い空間に充満する強烈な匂いに、今度は私がひどくむせてしまったのです。
涙目になりながら便器を磨いていると、ふと我に返りました。
「私、何と戦ってるんだろう…」
菌なのか、罪悪感なのか。
私は一度、掃除道具をすべて片付け「トイレ掃除」についてゼロから調べてみることにしたのです。
そこで知ったのは、衝撃的な事実でした。
私が不安に感じていた「クエン酸で本当に菌は死んでる…?」という疑問。その答えは、「強力な殺菌はできていなかった」だったのです。
クエン酸の主な仕事は、あくまで尿石や水垢といった「アルカリ性の汚れ」を溶かすこと。
「汚れ(菌のエサ)」を落とすプロではあっても「菌」そのものを積極的に殺す「殺菌」のプロではなかったのです。
私の不安は、ただの強迫観念ではなく、的中していました。
敵は「菌」ではなく「汚れの種類」だった
そこでようやく、私が戦うべきだったのは「菌」という見えない敵ではなく、まず目に見える「汚れの種類」だったんだと気づきました。
私は一度、掃除道具をすべて片付け、深呼吸しました。
そして、「トイレ掃除」について、もう一度ゼロから調べてみることにしたのです。
そこで知ったのは、とても基本的なことでした。
トイレの汚れは、一つじゃない。
- 尿石や黄ばみ、水垢:これらは「アルカリ性」の汚れ。だから「酸性」のクエン酸が効く。
- 黒カビやぬめり、手垢:これらは「酸性」の汚れ。だから「アルカリ性」の重曹が効く。
私が戦うべきだったのは「菌」という見えない敵ではなく、まず目に見える「汚れの種類」だったのです。
汚れの性質に合わせて洗剤を選ぶ。この当たり前の視点が、私にはすっぽり抜け落ちていました。
「まあいいか」で心に余裕を作る
…と同時に「家庭の掃除で、菌をゼロにするなんて土台無理な話だ」という諦めもつきました。
どこかで見つけた「まあいいか思考」という言葉も、このとき私の背中を押してくれました。
完璧を目指すのではなく「今日はこれだけでOK」と妥協点を見つけることで、ストレスなく継続できるという考え方です。
「完璧な除菌」という幻想を捨て「まあ死なない」くらいの現実的な落とし所を探す。
そう決めたら、心がようやく楽になりました。
私が決めた「使い分け」という落とし所
そこで私が見つけたのが「使い分ける」というルールです。
まず、大前提として、戦う相手(汚れ)を整理しました。
| 汚れの種類 | 汚れの性質 | 効果的な洗剤 |
|---|---|---|
| 尿石、黄ばみ、水垢 | アルカリ性 | 酸性(クエン酸など) |
| 黒カビ、ぬめり、手垢 | 酸性 | アルカリ性(重曹、塩素系など) |
この「アルカリ性の汚れには酸性、酸性の汚れにはアルカリ性」という基本を押さえた上で、ナチュラルと市販品、どちらかを捨てるのではなく、両方の良いところを「シーン」で分けることにしたのです。
これが、今の私の「頑張らない」トイレ掃除ルールです。
ルール1:毎日の「ついで掃除」
トイレを使ったついでに、トイレットペーパーにクエン酸スプレーを吹きかけ、便座や床など気になった場所を1分拭くだけ。
汚れを溜めないことを目標に。「まあいいか」の精神で。
ルール2:週1回の「しっかり掃除」
汚れの種類に合わせて使い分けます。フチ裏の黄ばみ(アルカリ汚れ)にはクエン酸パック。便器内の黒ずみ(酸性汚れ)には重曹。
基本はナチュラル素材なので、子供がいても安心です。
ルール3:月1回の「リセット掃除」
汚れがひどい時や、月に一度だけは、市販の塩素系洗浄剤に頼ると決めました。
子供が寝た後など、しっかり換気できる時に行います。
こう決めてからは罪悪感はゼロ。むしろ「今月もありがとう」という気持ちです。
混ぜるな危険、これだけは守ったこと
この「使い分け」で絶対に守っているルールが一つあります。
それは、「塩素系(アルカリ性)」と「酸性(クエン酸など)」を絶対に混ぜないこと。
同時に使うと有毒ガスが発生して、命に関わる危険があるからです。
これは本当に怖いですし、消費者庁なども家庭用洗剤の安全な使用について注意喚起をしています。
[参考]消費者庁「合成洗剤等の「まぜるな危険」の表示」
だから、市販の洗剤を使う「リセット掃除」の日と、クエン酸や重曹を使う「しっかり掃除」の日は、必ず別の日に行う。
そして、使用後はしっかり水で流す。
安全に使い分けること。それが、今の私にとって一番大切なことです。
「ちゃんと」の呪いが解けた日
このルールを決めてから、私の心は驚くほど軽くなりました。
トイレ掃除のたびに感じていた「これで大丈夫?」という不安も「子供に悪いかも」という罪悪感も、なくなったのです。
「ナチュラルか、市販品か」で延々と迷う時間がなくなり、心に余裕が生まれました。
毎日やるのは「ついで掃除」だけ、と決めたことで、掃除のハードルもぐっと下がった気がします。
完璧じゃなくていい。
私なりの、我が家なりの「落とし所」が見つけられたこと。それが一番の収穫でした。
掃除は「ちゃんと」やるための義務じゃない。
家族と私が、少しでも「心地よく」暮らすためのもの。
心が軽くなったら、以前より子供に対してもイライラしなくなったような気がします。
「完璧な除菌」という見えない敵と戦うのをやめた日、私はようやく「ちゃんと」の呪いから解放されたのです。