野菜嫌いの子供が、バレずに野菜を食べる「おやつ」としてのホットケーキ活用法を紹介する体験記です。
パートの帰り道、スーパーの袋が両腕に食い込むのを感じながら、頭の中は今晩の献立でいっぱいでした。
「今日はハンバーグにしよう。人参とピーマン、細かく刻んでバレないように混ぜ込んで…」
それなのに、玄関のドアを開けた瞬間、聞こえてくるのは「お腹すいた! お菓子!」という子供たちの声。
夕飯の支度をしている間、その声を聞き流すのが、私にとっては本当に辛い時間だったのです。
「食べない」と泣いた食卓が、笑顔の「おかわり!」に変わった日
以前の私は、「ちゃんと食べさせなきゃ」という思いに、いつも縛られていたような気がします。
夫は仕事が忙しく、平日の家事育児はほとんど私一人。 パートで疲れて帰ってきても、休む間もなくキッチンに立つ毎日。
栄養バランスを考えて、野菜をどう食べさせるかに、全神経を集中させていました。
ハンバーグ、カレー、ミートソース。 緑の野菜が見つからないよう、細かく細かく刻んで、色がつかないよう必死に混ぜ込む。
それなのに、子供は一口食べた瞬間に、あの小さな舌で、野菜の存在を正確に見つけ出すのです。
「いらない」
その一言で、私の努力は全部、泡になって消えていく。
- 「お菓子ばかりで、ご飯を食べない」
- 「私の料理が美味しくないから?」
- 「このままでは、栄養が偏ってしまう」
食べない子供への焦りと、そんな状況にイライラしてしまう自分への罪悪感。
食卓は、私にとって楽しい場所ではなく、むしろ「戦場」のようなものでした。
「食事」で戦うのをやめた日
転機は、同じパート先のお母さんとの、本当に些細な雑談でした。
「うちの子、野菜全然食べなくて…」いつものように愚痴をこぼした私に、彼女はあっけらかんと言ったのです。
「あー、わかる。うちはもう、おやつで食べさせてるよ。ホットケーキとか……」
おやつ?
私の中で、「おやつ=食事の邪魔になる、悪いもの」という認識でした。でも、彼女の言葉は、私の凝り固まった頭を、ガツンと殴るような衝撃だったのです。
そうだ。「おやつ」は「補食」。4回目の食事、と考えてもいいんじゃないか?
「食事」という土俵で、ハンバーグやカレーに必死で野菜を隠し、子供に警戒されながら戦う。その戦いに、私はもう疲れ果てていました。
でも、「おやつ」なら?
子供が喜んで無条件に「食べたい!」と思う、あの甘いホットケーキなら?
「食事で食べないなら、おやつで摂ればいい」
そう思った瞬間、目の前の霧が晴れていくような感覚でした。
とはいえ、どうやって?
以前、ハンバーグに混ぜた人参は、あの小さな舌で、正確に見つけ出された。ホットケーキに入れたとしても、同じことの繰り返しになるんじゃないか?
私は、かつてハンバーグで失敗した「みじん切り」を思い出していました。あの時バレたのは、野菜の「食感」と「匂い」だ。
なら、食感が完全になくなるまで「すりおろす」のはどうだろう?匂いや苦味は?
ホットケーキミックスの甘い香りなら、野菜の青臭さを隠してくれるかもしれない…(いわゆる「マスキング効果」というものだったんですね)。
「食事」という戦場で警戒している時とは違う、「おやつ」という無防備な時間なら…。
私は、パートの帰りに人参とホットケーキミックスをカゴに入れました。
我が家の「バレない」野菜ホットケーキ
それから、私の「賢いおやつ」作りが始まりました。
試行錯誤の末にたどり着いた、子供たちが警戒せずに「おいしい!」と言ってくれる、我が家の定番を紹介します。
1. バレなさ第一位:「すりおろし人参」
これはもう、王道です。 人参は、必ず「すりおろし」一択。みじん切りは、どうしても食感が残ってバレる原因になります。
- ホットケーキミックス:1袋(150g〜200g)
- 卵:1個
- 牛乳:規定量より少し少なめ
- すりおろし人参:1/2本〜1本分(水分量を見て調整)
ポイントは、ホットケーキミックスの甘い香りと、人参のほのかな甘味が合わさること。野菜の青臭さや苦味が、甘味によって隠されるわけです。
焼き上がりは綺麗なオレンジ色になって「かぼちゃのホットケーキだよ」と差し出すと、警戒心ゼロで手に取りました。
そして、一口。「おいしい!」
以前の「戦場」では決して聞けなかった、あの言葉。
夢中で頬張り「おかわり!」と空っぽのお皿を差し出す姿を見て、私はキッチンで泣きそうになりました。
2. 難易度高め:「ほうれん草」と粉チーズ
緑の野菜は、やはり警戒レベルが高い。ほうれん草は、茹でてからブレンダーでペースト状にするのが一番バレませんでした。
- 茹でてペースト状にしたほうれん草:大さじ1〜2
- 粉チーズ:大さじ1
ここで活躍するのが「粉チーズ」です。
粉チーズの塩気とコクが、ほうれん草の土っぽい香りを、うまくカモフラージュしてくれるのです。
甘いホットケーキだけでなく「補食」としての塩気のあるおやつ(ケークサレのような)としても活躍します。ツナや刻んだソーセージを混ぜても、喜んで食べることがありました。
ただ、入れすぎると生地が緑色になり、その時点で「NO」と言われることも…。
最初はほんの少し、生地の色が変わらない程度から始めるのが無難です。
ご参考:詳しいレシピについて
この記事では、あくまで「我が家のやり方」としてのコツを紹介しました。
もし、グラム単位の詳しい手順や、基本的な作り方を知りたい場合は、広告や個人の感想に左右されない「メーカー公式サイト」のレシピページが一番参考になると思います。
ホットケーキミックスを製造しているメーカーさん(森永製菓さんや日清製粉グループさんなど)の公式サイトには「すりおろし人参」を使ったおやつや「ケークサレ」のような塩気のおやつの公式レシピが紹介されています。
私が試行錯誤した「甘い香りで野菜をマスキングする」工夫や「補食としてのおやつ」のヒントとして、信頼できる情報源になるはずです。
[参考]ウサギのにんじんホットケーキ | 天使のお菓子レシピ | 森永製菓株式会社
[参考]ケーク・サレ | レシピ | 日清製粉ウェルナ
3. バレた時の「失敗談」と3つのルール
もちろん、最初からうまくいったわけではありません。
一度、野菜の量を欲張って、人参をみじん切りで大量に入れたことがありました。
焼いている時から野菜の匂いが立ち込め、生地の表面には人参の粒がくっきり。
「これ、なに?」
子供は、一口も食べませんでした。
この失敗から、私が学んだ「バレない」ためのルールが3つあります。
- 食感を絶対に残さない(すりおろし、またはペースト):子供は味よりも先に「食感」で異物を察知します。みじん切りは、どれだけ細かくしてもバレるもの、と割り切りました。
- 色と香りを出しすぎない:緑やオレンジが濃すぎると、見た目で警戒されます。最初は「入ってる?」と不安になるくらいの少量から。
- 「野菜入りだよ」と、絶対に言わない:「食べた」という事実が大切。栄養が摂れたなら、それで私の任務は完了です。
「これ、人参入ってるんだよ」と言いたい気持ちをぐっとこらえて、子供の「おいしい!」という笑顔だけを受け取ることにしたのです。
「ちゃんと」の呪いを解いた、甘い匂い
ホットケーキを焼くようになり、我が家の食卓から「戦い」が消えました。
夕飯のピーマンを残されても「まぁ、いっか。今日のおやつで人参食べたし」と、本気で思えるようになったのです。
あれほど私を苦しめていた「ちゃんと食べさせなきゃ」という呪い。
その呪いを解いてくれたのは、完璧な栄養バランスの献立ではなく、キッチンに広がる、あの甘いホットケーキの匂いでした。
ハードルを下げる。 完璧を目指さない。
そう決めたら、イライラしていた時間が、子供の笑顔を見る時間に変わっていきました。
今日もパートからの帰り道、私はスーパーでホットケーキミックスをカゴに入れています。