ストレスによる衝動買いの連鎖を断ち切るために、私が実践した思考の転換と具体的な行動の変化を綴った体験記です。
仕事と育児に追われる、いつもと変わらない夜。
パートを終え、子供たちを保育園に迎えに行き、息つく間もなく夕飯の支度を済ませる。夫は今日も帰りが遅い。
子供たちがようやく寝静まったリビングで、たった一人、スマートフォンの青い光を眺める時間…。
そんな、心がからっぽになった夜に限って、画面に流れてくるセール情報や新商品の広告が、やけに魅力的に見えてしまうのでした。
指先一つで手に入る、ささやかな高揚感。でも、その喜びはあまりにも短く、翌朝には決まって、重たい罪悪感と自己嫌悪の渦に飲み込まれていくのです。
「安いから」が口癖だった私が、心の満足を優先できるようになった理由
以前の私は、まさに「安物買いの銭失い」を地で行くような生活を送っていました。
- ストレス発散
- 自分へのご褒美
そんな都合のいい言葉を言い訳にしては、仕事帰りのコンビニでカゴいっぱいに甘いものを詰め込んだり、セール品を見つけると「今買わきゃ損だ」とばかりに飛びついてしまう。
クローゼットには、値札がついたままの服。キッチンの棚には、一度使ったきりの調理器具。
部屋にモノが増えれば増えるほど、それに比例して心の余裕が失われていくような…そんな感覚さえありました。
買った直後は満足しているはずなのに、月末にカードの請求額を見て愕然とする。そして「また無駄遣いしてしまった」と自分を責め、そのストレスからまた新たな衝動買いに走ってしまう……。
そんな負の連鎖の中でもがいていたある日、SNSで「ストレス→爆買い→将来への金銭的不安→激鬱までがワンセット」という投稿が目に留まりました。
まるで自分の日記を読んでいるかのような言葉に、ドキッとすると同時に、どこか救われたような気がしたのです。「私だけじゃなかったんだ…」と。
このままではいけない。そう頭では分かっているのに、心が言うことを聞かない。そんな自分が、本当に嫌でした。
衝動の波を乗りこなす、たった2つのマイルール
何とかこの状況を変えたい一心で、私がまず試したのは、買い物に対する自分なりのルール作りでした。
意志の力に頼るのではなく、仕組みで自分をコントロールしようと考えたのです。
ルール1:「24時間ルール」という名の冷却期間
「今すぐ欲しい!」という強い衝動に駆られたとき、その場で決断しない。
ただそれだけの、とてもシンプルなルールです。
具体的には、欲しいものを見つけてもすぐにカートには入れず、スマートフォンのスクリーンショットだけを撮っておく。
そして、24時間後にもう一度その写真を見て、まだ同じ熱量で欲しいと感じるか、自分の心に問いかける時間を作りました。
不思議なもので、一晩という時間を置くだけで、あれほど輝いて見えた商品の魅力がすっと色褪せて見えることがほとんど。
あの時の高ぶった感情が、いかに一過性のものだったかを痛感させられる瞬間でした。
この「一度立ち止まって考える」という物理的な距離と時間が、暴走しがちな感情に、冷静さを取り戻させてくれたのです。
ルール2:「これを何時間働けば買える?」と問いかける
もう一つ効果的だったのが、欲しいものの値段を自分の労働時間で考えてみる、という方法です。
例えば、5,000円の洋服が欲しいと思った時。私のパートの時給で計算すると、それは約5時間分の労働に相当します。
「この服は、私が5時間懸命に働いた時間と、同じ価値があるだろうか?」
そう自分に問いかけると、それまで「5,000円」という単なる数字でしかなかったものが、急に生々しい重みを持って感じられるようになりました。
この問いかけは、購入の動機が「感情」から「理性」へと切り替わる、私にとって大切なスイッチになってくれたのです。
「ノーマネーデー」が教えてくれた、お金を使わない豊かさ
次に私が始めたのは、意識的にお金を一切使わない日「ノーマネーデー」を週に一度設けることでした。
正直なところ、最初は「一日何も買えないなんて、不便でストレスが溜まるだけじゃないか?」と半信半疑だったのです。
でも、実際にやってみると、その日は驚くほど多くの発見に満ちていました。
お金を使えないから、お昼は冷蔵庫にあるもので工夫して、いつもより少し丁寧なごはんを作る。
午後の休憩には、インスタントコーヒーではなく、お気に入りの茶葉でゆっくりと紅茶を淹れる。近所の図書館まで散歩して、気になっていた本を借りてみる。
それは、お金を払ってモノを手に入れることで得られる満足感とは全く質の異なる、穏やかで満たされた時間でした。
お金を使わないことで、すでにあるモノや自分の時間に目を向け、その価値を再発見できたような気がします。
ノーマネーデーは、単なる節約術ではなく、自分の人生の選択肢を豊かにするための、一つの戦略になったのです。
ちなみに私は、この成功を実感したくて、簡単な家計簿アプリも使い始めました。アプリのカレンダーに「出費ゼロ」の印がつくのを見るのが、ささやかな達成感になっています。
私の買い物の基準を変えた、「未来の自分」への問いかけ
こうした小さな成功体験を重ねるうちに、私のモノに対する価値観そのものが、少しずつ変化していきました。
それまでは「欲しいもの」を手に入れることばかり考えていましたが、次第に「したいこと」にお金や時間を使いたいと思うようになったのです。
きっかけは、ふと目にした「バケットリスト(死ぬまでにやりたいことのリスト)」という言葉でした。
深く考えすぎず、ただ自分が心から「やりたい」と思うことをノートに書き出してみたんです。
- 一人でゆっくりカフェに行く
- 子供と一緒にお菓子作りをする
- ずっと行きたかった少し遠くの公園に、お弁当を持って出かける
書き出されたのは、そんなささやかなことばかり…。
でも、衝動的に買っていた洋服や雑貨の値段を考えれば、これらは十分に実現可能なことでした。
それ以来、何かを買おうか迷った時には、必ず「これを買うことで、私のやりたいリストは一つでも叶うだろうか?」と自問するようになりました。
この「未来の自分との対話」が、私の買い物の基準を「今、欲しいもの」から「未来の自分が豊かになること」へと、大きく変えてくれたような気がします。
モノで埋めていた心の隙間が、小さな満足感で満たされるまで
衝動買いの連鎖に陥っていた頃の私は、モノを買うことで、日々のストレスや満たされない心の隙間を埋めようとしていたのかもしれません。
でも、その行為がもたらすのは、ほんの一瞬の快感と、その後にやってくる長い後悔だけでした。
思考法を少しだけ変え、小さなルールを実践し始めてから、私の生活が劇的に変わったわけではありません。
でも、ふと気づけば、部屋は少しだけすっきりと片付き、月末に請求額を見て頭を抱えることもなくなりました。
何より大きな変化は、自分の感情に振り回されなくなったことです。
衝動という名の嵐に飲み込まれるのではなく、その波を静かに乗りこなせるようになった、という実感があります。
かつてモノで埋めようとしていた心のスペースは、今、お金を使わずに得られるささやかな満足感や、未来の楽しみを計画するワクワクした気持ちで、少しずつ満たされています。
それは、誰かに与えられるのではなく、自分自身で見つけ出した、確かな豊かさでした。