調理済みおかずの風味を落とさない保存方法と、美味しさを復活させる温め直しの技術を解説します。
昨日の夜、多めに作っておいた唐揚げ。それを食卓に出す時の、あのなんとも言えない空気。
夫は何も言わないけれど「あ、残り物か」と一瞬だけ表情が曇るのを、私は見逃しません。
「ごめんね、残り物で…」口には出さなくても、いつも心の中で謝っていました。
この、じわりと広がる罪悪感。
以前の私は、この罪悪感を打ち消したくて、残り物を必死に「リメイク(姿を変えること)」ばかり考えていたような気がします。
でも、心のどこかで分かっていたのです。リメイクする以前に、そもそも温め直した時点で美味しくない。それが一番の問題なのだと。
「温め直し」が、ただの苦行だった頃
かつての私にとって「残り物の温め直し」はストレスそのものでした。
電子レンジの「自動あたため」ボタンを押す。ただそれだけなのに、なぜかうまくいかない。
- 唐揚げの衣は水分を吸ってべちゃっとするか、温めすぎてカチカチの石のようになる。
- カレーを温めれば、お皿のフチから中身がべローンと液ダレして、テーブルを拭く手間が増える。
- ひじきの煮物や切り干し大根は、温め直すと妙にパサパサして、作った時とは別物になってしまう。
一番怖かったのは、操作ミスです。
パートから帰ってきて疲れている時、スーパーのお惣菜を30秒温めるつもりが、ぼーっとして「30分」に設定していたことがありました。
キッチンに広がる異臭と、溶けかけたプラスチック容器を見た時の血の気が引く感覚…。
火事にならなかったのが不思議なくらいで、それ以来、レンジの前に立ち尽くす時間が増えたものです。
温め直しのたびに味が落ち、食感が失われる。そして、夫は喜ばない。残り物はまずくなる。
それはもう、仕方のないことなのだと諦めていました。
「まずくなる」原因は、温め方より「保存」にあった
転機になったのは、あの「レンジ30分事件」があまりに怖かったからです。
「火事になっていたら」と思うとゾッとして、ただ自動ボタンを押すこと自体が怖くなった私は、根本的な原因を知りたくて、必死に調べ始めました。
そして、ごく単純な事実に気づいたのです。
「温め直し」がうまくいかないのは、レンジの性能のせいではなく、その前段階である「保存」の仕方に問題があるのではないか、ということです。
1. 「熱いうちに密閉」という勘違い
今までの私は、作りすぎた煮物や炒め物を、熱いままタッパーに詰め、すぐに蓋をして冷蔵庫に入れていました。その方が鮮度が保てると思い込んでいたのです。
でも、これが大きな間違いでした。
熱い食品を密閉すると、容器の中で蒸気が水滴になり、その水分が菌の繁殖原因になること。
そして、その余計な水分が、温め直した時のべちゃつきを生んでいたわけです。
私が変えた保存ルール
- 必ず「粗熱」を取る。
バットのような熱が伝わりやすいものに移すか、ボウルの底を氷水で冷やしながらかき混ぜるかして、手早く冷ます。 - 1食分に「小分け」する。
大皿や鍋のまま保存しない。食べきれる量に分けておけば、何度も温め直す必要がなく、衛生的です。 - 夕食の「取り分け」ルール。
夕食のおかずを翌日のお弁当に入れる時も、食卓に出す前に、お弁当箱に詰めてしまいます。
箸をつけて唾液が付着するのを防ぐためです。
2. 「とりあえず冷凍」がパサつきの原因
ご飯もそうでした。余った冷やご飯をラップに包んで冷凍し、温め直しては「やっぱり美味しくない」と落ち込む。
これも順番が違ったのです。
おかずとは違い、ご飯だけは「熱々」のうちに小分けして急速冷凍するのが正解でした。
冷めてからでは、お米に含まれるデンプンが変化(老化)して、味が落ちてしまう。おかずの「粗熱を取る」ルールと真逆に見えますが「デンプンの老化を防ぐ」という、ご飯ならではの理由があったのです。
冷凍する時も、金属製のトレーの上に置いて冷凍庫に入れるだけで、急速冷凍に近くなり、解凍時のドリップを防げます。
「レンジ一択」の呪いを解く、温め直しの神テク
保存方法を見直したことで、まずさの土台は改善されました。次に取り組んだのが「温め直し」そのものの技術です。
「残り物=レンジでチン」この固定観念を捨てるだけで、食卓は劇的に変わったのです。
揚げ物(唐揚げ・天ぷら):「くしゃくしゃアルミホイル」の魔法
一番感動したのが、揚げ物の復活です。今まではレンジで温め、べちゃべちゃの衣を「これが残り物だから」と食べていました。
揚げ物復活の手順
- まず、電子レンジ(500Wで30秒〜1分程度)で、中を軽く温めます。
- 次に、オーブントースターのトレーに、一度くしゃくしゃにしてから広げたアルミホイルを敷きます。
- その上に揚げ物を並べ、表面がカリッとするまで焼きます。
この「くしゃくしゃのアルミホイル」がすごい。凸凹の溝に、温め直す過程で出てくる余分な油や水分が落ちるのです。
衣はサクサク、中はジューシー。これはもう「温め直し」ではなく、「復活」でした。
煮物・汁物(煮込み料理):「コンロで煮直す」が正義
ひじきの煮物や切り干し大根、カレーやシチュー。これらをレンジで温めると、どうしても加熱ムラができます。端は熱すぎ、真ん中は冷たい。
そして、衛生面での不安も解消されました。
煮込み料理は、ウェルシュ菌のような熱に強い菌が、冷める過程で増殖しやすいこと。
この菌は再加熱しても死滅しにくい場合があり、中途半端なレンジ加熱(加熱ムラがあるため)では食中毒のリスクが残ると知りました。
[参考]家庭での食中毒予防|厚生労働省
煮物の温め直しルール
- レンジではなく、小鍋やフライパンに移してコンロで火にかける。
- 全体が沸騰するまで、しっかり「煮直す」。
時間は数分かかりますが、これが一番確実でした。味も均一に染み渡り、パサつきません。
衛生的な安心感が、何より心の負担を減らしてくれたのです。
炒め物(野菜炒め):そもそも「べちゃつかない」作り方へ
野菜炒めは、温め直しに最も不向きだと思っていました。でも、これも「作り方」を変えるだけで解決したのです。
野菜炒めが水っぽくなるのは、火力が弱いフライパンで、食材を「蒸し焼き」にしているから。
べちゃつかない炒め物のコツ
- フライパンを、うっすら煙が出るくらいまで強火で予熱します。
- 肉や火の通りにくい野菜から投入し、強火で一気に30秒~1分で仕上げます。
- 塩・コショウ・醤油などの調味料は、火を止める直前に加える。早く入れると、野菜から水分が出てしまうからです。
この方法で作った野菜炒めは、冷めても水っぽくならず、翌日温め直してもシャキシャキ感が残っていました。
「ごめんね」が「ありがとう」に変わった日
「保存」と「温め直し」の、ほんの小さなルールを変えただけ。リメイクのような派手な手間は、何もかけていません。
それでも、食卓の空気は変わりました。
先日、トースターで温め直した唐揚げを出した時のこと。夫が「あれ、これ昨日作ったやつ? うまいな」と口にしたのです。
「どうせ夫は喜ばない…」そう思い込んでいたのは、私自身だったのかもしれません。
何より変わったのは、私自身の気持ちです。「残り物でごめんね…」という罪悪感が消えました。
今では「昨日たくさん作った私、ありがとう」と、素直に思えるようになったのです。
それ以来、カレーやシチューが余った時は、アイラップ(ポリ袋)に入れて小分け冷凍するといった、新しい「手抜き」も試すようになりました。
「残り物はまずくなる」という諦めから解放され、温め直しが「劣化」ではなく「復活」の作業になったこと。最小限の手間で、翌日も「美味しい」食卓を囲めるようになったこと。
それが、家事に追われる今の私にとって、何よりの救いになっています。